【焙煎手順③】焙煎プロファイルの作り方と準備の方法
目次
焙煎プロファイルとは?
焙煎プロファイルとは、生豆の特徴や狙いたい焙煎度に応じてどのようにアプローチしていくかというものです。焙煎プロファイルを、細かく作れば作るほど焙煎時のパニックが少なくなります。
焙煎では、全ての豆に同じアプローチをするのではなく生豆が持っている性質(水分値・精製方法・密度など)によって火力や投入温度を調節しなければいけません。水分値が低ければ焦げやすかったり、ナチュラル精製だと糖を多く含んでいるので低火力で、ナチュラル精製の特製である「甘み」と「コク」を最大限に生かす焙煎が望ましいなど様々な要素があります。そのため、各豆ごとに焙煎プロファイルを作る事が重要になります。
そして、焙煎プロファイルを作るには、「焙煎メモ」を利用し自分が行った焙煎を記録しましょう。焙煎メモとは、コーヒー豆を焙煎する温度や時間などの条件を詳細に記録したものです。
焙煎メモを活用する
以下は焙煎メモの例になります。焙煎機の種類などによって調節できない要素もありますが、大まかな内容はこのようになっています。
必要な項目だけ抜き取って自分だけの焙煎メモを作成するのがオススメです。
出典:Chouette torréfacteur laboratoire様blog
焙煎では、与える熱量とその熱量に何分生豆をさらしたかという「焙煎メモ」を管理することで初めて安定した焙煎・味づくりを行う事ができます。温度プロファイルを定めて焙煎ができるようになれば、「風味、焙煎時間、焙煎豆外観」といった変動要因を安定させることが可能になります。
もちろん、「感覚的に・・・」とか「焙煎中の香りで・・・」といった要因で焙煎方法を安定化させている猛者も少なからずいますが、焙煎とは「化学」ですので感覚に頼って焙煎を安定化させるのはとても難易度が高く、化学的に根拠の無い焙煎方法は風味や外観の安定性を欠くことになってしまいます。
【焙煎メモの主な内容】
焙煎日 | 焙煎した日付。 |
気温 | 焙煎したその日の気温。 |
投入量 | 焙煎機に入れる生豆の量。 |
投入温度 | 焙煎機に豆を投入する時のドラム内温度と排気温度。 |
中点 | 豆を投入し下がり切った時の温度。時間も記入しても良いかもしれません。 |
毎分ごとの温度 | 毎分ごとの温度。 |
RoR | 毎分ごとの上昇温度。 |
排出温度 | 焙煎を終了した時の温度。 |
排出時間 | 焙煎を終了した時の時間。 |
ガス圧(火力) | ガス圧(hPa)や火力(%)など火力操作の数値。 |
ダンパー | 排気ファンやドラム外部につながる排気弁。この弁の開き加減。 |
排気ファン | ドラムから煙やチャフを排出するために吸引する装置。 |
生豆の水分値 | コーヒー専用のものや穀物用の水分測定器を用いて、豆に含まれる水分の割合を測定。 |
アグトロン | 焙煎した豆の色を数値で表したもの。専用の機材を用いて測定する。 |
「焙煎プロファイル」は、焙煎をする前にどのようにアプローチするかを決める。「焙煎メモは」、焙煎の最中に起こったことを記録するという考え方が一般的です。
では「焙煎プロファイル」の作り方を「焙煎メモ」の内容をふまえて紹介します。
焙煎プロファイルの作り方
焙煎プロファイルを作る際の主なポイントは4つです
- 投入量を決める
- 投入温度を決める
- 火力調節を決める
- 排出時を決める
では詳しく見ていきましょう。
投入量を決める
まずは、投入量を決めましょう。
通常、焙煎機には推奨されている量が記載されています。しかし、これは焙煎できる最大量であって一番最適な焙煎量ではない事が一般的です。
コーヒーコンサルタントとして25年活動を続けているScott Rao氏によると、焙煎機が推奨している投入量の「50%〜70%」の投入量が最適な量と述べています。
参考:How to Choose a Roasting Machine
「生豆の投入量が少ないと」
豆とドラム側面の接触時間は減少して、空気との接触時間が増えます。適切な量よりも少ない事で、一つ一つの豆が受けるエネルギーが高くなります。これにより温度の上昇率(RoR)が早くなり、豆の中心部に熱が伝わる前に表面だけ焼けてしまい、「生焼け」と呼ばれ中心部の未発達により青臭い味わいが発生します。
「生豆の投入量が多いと」
豆とドラム側面の接触時間は増加して、空気との接触時間は減少すします。投入量が多いと、ドラム内で豆が効率よく攪拌されなくなり、すべての豆を均一に熱する事ができなくなります。これにより、上昇率(RoR)が遅くなり、味の発達に必要な時間が長くなる可能性があります。その結果、風味が薄くなる「ベイクドフレーバー」になってしまう可能性が高まります。
また、コーヒー豆は焙煎中に膨張するので、投入量が多いと豆が膨張することにより豆があまり攪拌されなくなります。ある豆はドラムとの接地時間が増え、ある豆は内側に閉じ込められるため、均一に焼く事ができなくなります。
このようなことから、最大の投入量を使用するのではなく、「50%〜70%」の量で焙煎をすることが推奨されています。
この「50%〜70%」の差は、それぞれの焙煎機の最大火力や蓄熱機能によって探る必要があるので、「50%〜70%」の間で試してみましょう。また、生豆の持っている水分値や密度によって微調節することも大切です。
投入温度を決める
投入温度を決める際には様々要因を考えなければいけません。大まかな投入温度は、それぞれの焙煎機が持っている最大火力や適切な投入量によって大きく変化しますので、残念ながらこの温度が正解という温度はありません。
コーヒーコンサルタントScott Raoの著書”Coffee Roasting : Best Pracitces”で彼は、焙煎機の大きさごとの投入温度を表で表しています。
500g〜1kg | 175°C〜190°C |
6kg | 185°C〜200°C |
12kg〜20kg | 195°C〜210°C |
30kg | 200°C〜215°C |
そして、世界最大級のコーヒーコミュニティ「バリスタハッスル」によると、投入温度を決める際には、狙っている豆の排出温度と同じ、あるいは10度低い温度で試してみるのが良いと述べています。もし210度で排出する場合は200〜210度の間で試してみるのが良いということ。もちろん、この絶対にこの間でなければいけないということはないので色々試してみて美味しいコーヒーが出来る温度を探してみましょう。
参考:HTR 2.05 Charge Temperature
そして、排出温度を決める際には、どの焙煎度のコーヒーを作りたいかによって変わってきます。ここも試行錯誤が必要です。まずは狙いたい焙煎後の豆の色を決め、その色になったら排出してみましょう。酸味が強ければさらに長く、風味が薄い場合には早めの排出を試してみましょう。
基本的に、投入温度が低すぎると風味が発達しません。これは、焙煎に必要なエネルギーを生成するのに時間がかかりすぎるためです。焙煎が長引くと風味が薄くなる「ベイクドフレーバー」になってしまう可能性が高まったり、逆にやけ過ぎてしまう可能性があります。
一方で、投入温度が高すぎると、豆の外側が焦げてしまう可能性が高まります。これにより、乾きや焦げた味わいが生じます。
なので、一番最初に投入温度を決める場合はとりあえず焙煎してみましょう。風味が薄い場合は投入温度を高めてみる。乾きや焦げた味わいがする場合は投入温度を少し下げてみましょう。
では、どうやって細かな温度を探っていくのか。主にコーヒー豆が持っている4つの特徴を知ることによって調節することが一般的です。
- 水分量
- 大きさ
- 密度
- 精製方法
豆の水分量
Coffeebarの焙煎師であるデイビッド・ウィルソンによると「豆に含まれる水分が多いほど、豆はより多くの熱を保持でき、より良い熱伝達が得られることができます。そのため、水分値が多い場合には焙煎の初期段階でより高い熱を受け入れることができます。」
参考:How Does Moisture Content Affect Coffee Roasters?
【低い水分値の場合】
- 水分率が低くいと中心まで熱が伝わりにくいので、強い火力だと外側だけが焦げやすくなっていまします。そのため、低い投入温度に設定しましょう。
【高い水分値の場合】
- 水分率が高いと熱伝導率も高いので、高い火力でも外側だけ焦げることがないので、高い投入温度に耐える事ができます。
豆の密度
エルサルバドルのレチューザ・カフェのセサール・マガナは、密度による主な違いは豆が熱を吸収する能力にあると述べています。「硬い豆は柔らかい豆よりも熱伝導率が良く風味の発達が良い。しかし、熱に対する抵抗力も高いのも事実。また、柔らかい豆は硬い豆よりも固体構造が少ないです。そのため豆内部には空気が多くあり熱伝導が悪くなります。そのため、熱が高すぎると、豆の表面が過熱し、焦げるリスクがあります。そのため、柔らかい豆には低い投入温度を使用すべき。」と述べています。
参考:Roaster basics: Managing coffee bean density
【軟質な豆の場合(低地)】
- 生豆の密度が低いとそのぶん熱が伝わりにくいため、表面に与えられた熱はゆっくりと中心部に伝わります。そのため、高火力だと表面だけ焦げてしまう生焼けの可能性が高まります。
【硬質な豆の場合(高地)】
- 生豆の密度が高いとその分熱が伝わりやすいため、表面に与えられた熱は素早く全体に伝わり、均一に温まります。また、密度が高いということは豆の壁が硬いということなので、より強い火力でカロリーを与える必要があります。
豆の大きさ
焙煎における豆のサイズの影響は、単純に大きな豆の内部に熱が浸透するのに時間がかかることです。これは大きな豆ほど温度がより遅く上昇し、焙煎の終わりには中心部の温度が低いことを意味します。
参考:RS 2.05 Bean Size and Shape
【小さい豆の場合】
- 生豆のサイズが小さいと、熱が全体に行き渡るまでの時間が短くなり、弱い火力でも焙煎できます。
【大きい豆の場合】
- 生豆のサイズが大きいと、熱が全体に行き渡るまでの時間が長くなるので、強い火力が必要になります。
精製方法
精製方法に関して、Libertario Coffee Roastersのルイーザはナチュラルプロセスの場合はウォッシュトプロセスよりも低い投入温度を推奨しています。「ウォッシュトプロセスには約185ºCの投入温度を使用しています。しかし、ナチュラルプロセスでは、豆が焦げやすいため低温を選ぶのが基本。ナチュラルコーヒーの濃縮された糖分が焦げて灰のような風味を生じさせる可能性があるからです。」
参考:How to Control Charge Temperature: A Coffee Roasting Guide
【ウォッシュトプロセス】
- ウォッシュドプロセスでは、精製後の豆には果肉がほとんど残っていません。そのため、糖分が少なく、強火でも焦げる心配が少ないです。
【ナチュラルプロセス】
- ナチュラルプロセスでは、果肉が豆に残った状態で精製されます。このため、糖分が豊富であり、焦がさないように注意が必要で、弱火での焙煎が推奨されます。
- ナチュラルプロセスやハニープロセスでは、その甘さを引き立てるためにゆっくりと焙煎し、特有の香り、甘さ、ボディを際立たせることが一般的です。
また、季節によって焙煎機自体の温度が大きく変わり、焙煎にも大きく影響が出ますので、夏や冬で投入温度を調節することも大切です。
火力を決める
焙煎中には大きく分けて3つのフェーズがあります。この3つのフェーズごと、にどのような火力アプローチをするかによってコーヒーの味わいに大きな影響が出ます。
ここでは3つのフェーズと味への影響を紹介します。
- ドライングフェーズ
- メイラードフェーズ
- デベロップメントフェーズ
ドライングフェーズ/Drying Phase
このフェーズは、焙煎の初期段階に豆から水分を除去することで、成分を美味しく進化させる前駆体を作っていくフェーズです。このフェーズで味を構成していくというよりは、しっかり水抜きをして前駆物質作るという意識が大切になってきます。
基本的に水抜きは豆投入後5〜7分(150〜160℃)で終了するとされていて、蒸気が落ち着き、生臭さが消える地点がドライングフェーズ終了の目安です。
このフェーズでは、水抜きをしっかり完了させるということが最も重要なので、投入温度を決めた時の4つの要素「水分量」「大きさ」「密度」「精製方法」に応じて火力調節をしましょう。
スペシャルティコーヒー協会(SCA)から認定されたロースターおよびバリスタでもあるニッキ・アムーリ(Nicki Amouri)が行った実験によると、中点を74°、ドライングフェーズの時間を6分30秒にした場合が、最もバランスが良く、甘みが際立つ焙煎ができると語っています。
メイラードフェーズ/Maillard Phase
メイラードフェーズは、前段階のドライングフェーズで水分の結合が外れた前駆体の還元糖とアミノ酸が加熱により褐色物質の「メラノイジン」などができる反応です。これにより甘み、香ばしい香り、うまみ、といった要素を生み出します。
このフェーズでは、風味のバランスを決めていくイメージです。
【短時間】フレーバー、酸味
【長時間】口当たり、甘み
簡単に表すと、この2つのバランスを調節していきます。特に甘みを引き出したい場合にはメイラードフェーズを長く取ることが推奨されています。しかし甘さが際立たせるために、時間を長く取るほど他の風味が失われてしまうので注意が必要です。
デベロップメントフェーズ/Development Phase
このフェーズでは様々な化学成分が分解、生成、結合などを凄まじいスピードで繰り返し、フレーバー形成、アロマの増加、苦味を発生させる段階です。
このフェーズでは、メイラードフェーズで作ったバランスを発達させて、美味しい味わいに整えてるイメージです。
1ハゼ後から排出までの、豆が一番熱による影響を受けやすく脆い状態なので、最も慎重な温度調節が必要な段階です。
こちらもメイラードフェーズ同様、簡単に表すと、この2つのバランスを調節していきます。
【短時間】フレーバー、酸味
【長時間】口当たり、甘み
ニッキーによると、アシディティを強調したい場合は1分、スウィートネスやジューシーさを引き立てたい場合は2分のデベロップメントタイムを選ぶことが多いと述べています。このことから、シングルオリジンには1分30秒、ブレンドコーヒー(特にエスプレッソブレンド)には2分が理想的だとしています。
RoR(温度上昇率)について
RoRはRate Of Riseの略で、温度の上昇率を指します。焙煎中において、釜内でコーヒー豆の温度が1分間(または30秒間)にどれだけ変化するかを示す数値です。
スペシャルティコーヒーの認知により、最近では焙煎を安定させるには、このRoRが緩やかに減少する状況を作る事が最も重要とされています。
なので、3つのフェーズで狙いたい味わいに向かって火力調節をしていくと同時に、RoRを緩やかに減少させなければいけません。そのためには、焙煎開始から終了まで火力を上げていくのではなく徐々に下げていく調節が適切です。
3つのフェーズとRoRについて詳しく書くとかなり長くなっていますので、深掘りした内容をこちらにまとめています。
排出時を決める
排出時はコーヒーの味わいを決める大きな要素です。早めの排出であれば「浅煎り」、遅めであれば「深煎り」となります。
この焙煎終了時は主に、色と音で判断することができます。
ライトロースト(Light Roast) | 【浅煎り】 | 1ハゼスタート |
シナモンロースト(Cinnamon Roast) | 【浅煎り】 | 1ハゼのピーク |
ミディアムロースト(Medium Roast) | 【中煎り】 | 1ハゼと2ハゼの間 |
ハイロースト(High Roast) | 【中煎り】 | 1ハゼと2ハゼの間後半 |
シティロースト(City Roast) | 【中深煎り】 | 2ハゼスタート |
フルシティロースト(Fullcity Roast) | 【中深煎り】 | 2ハゼピーク |
フレンチロースト(French Roast) | 【深煎り】 | 2ハゼ終了 |
イタリアンロースト(Italian Roast) | 【深煎り】 | 2ハゼ後 |
【焙煎時間】
- ライトローストの方は焙煎時間が短く、イタリアンローストになっていくにつれて焙煎時間は長くなっていきます。
【豆の色変化】
- ライトローストの方は色が明るく、イタリアンローストになるにつれて黒に近づいていきます。
【味の傾向】
- ライトローストの方は酸味が強く、イタリアンローストになっていくにつれて苦味が強くなっていきます。
この焙煎度から、自分の焙煎したい味わいを選び焙煎を終了する時を見極めましょう。このハゼや色に関しても焙煎機の性能や投入温度によって時間が大きく変わってくるので、残念ですがこれといった時間はありません。焙煎メモを使用しそれぞれの焙煎機ごとの時間を測りましょう。
詳しい焙煎度の種類と見分け方については、こちらの記事で解説しています。