【焙煎手順①】コーヒー焙煎のための生豆の選び方を徹底解説

焙煎をするにあたり、一番最初にやらなければいけないのが生豆の選定です。

コーヒーの味わいを左右する最も重要な要素は、間違いなく生豆の品質。どれだけ凄い焙煎技術を用いても、生豆の本来の品質を超える味や香りを引き出すことはできません。だからこそ、どんな生豆を選ぶかがカギとなります。

また、生豆が持っている特徴によって焙煎のアプローチを変える事も非常に重要です。精製方法や育った標高、持っている水分値が違うだけで糖分や密度に大きな差が産まれ、焦げやすかったり、中まで火が通りにくいなどの個体差があります。そのため、生豆の個性を知り豆ごとに焙煎方法を変えることは非常に重要になってきます。

そこでこの記事では、生豆を選ぶときのポイントと特徴ごとの焙煎へのアプローチ方法をまとめてみました。

そんな生豆選びで重要なポイントは主に4つあります。

  • 産地:コーヒーの風味は産地の気候や土壌に深く影響されます。
  • 精製方法:生豆の処理方法が風味に大きく影響します。
  • グレード:生豆の品質を示す評価で、風味や豆の状態を示します。
    • 標高:標高が酸味や香り、味わいに大きく影響します。
    • スクリーンサイズ:大きい豆ほど高品質とされています。
    • 欠点豆:欠点豆の割合が少ないほど、評価が高くなります。
    • カッピングテスト:焙煎した豆を総合的に判断します。
  • 収穫年度:収穫された年によって、風味が変わることがあります。

では4つのポイントを詳しくみていきましょう。

コーヒーの産地

コーヒー豆の風味は産地によって大きく異なります。まずは、どのような風味のコーヒーが好みかを知る事が大切です。

そんな産地は大きく分けて4つに分類する事ができます。

  • 南米
  • 中米
  • アフリカ
  • 東南アジア

【南米】バランスタイプ

南米産のコーヒーは、甘さと酸味のバランスが特徴的です。一般的にはナッツやチョコレートのような甘い風味があり、口当たりはクリーミー。苦味もマイルドで飲みやすいです。

【主な南米のコーヒー産地と特徴】

【中米】キレ・スッキリタイプ

中米産のコーヒーは、軽やかで爽やかな酸味とフルーティー感が特徴的なコーヒーです。軽やかな味わいや柑橘系の爽やかな酸味は中米で栽培されたコーヒーの大きな特徴です。

【主な中米のコーヒー産地と特徴】

【アフリカ】キレ・ジューシータイプ

アフリカ産のコーヒーは芳醇で濃厚な香りと際立つ酸味が特徴的です。酸味の質に関しては、中米産のコーヒーに比べると、アフリカ産のコーヒーは刺激が少なく、より優しい酸味が楽しめるのが特長です。また苦味の少ない豆が多く、飲みやすいコーヒーとなります。

【主なアフリカのコーヒー産地と特徴】

【東南アジア】コク・スパイシータイプ

東南アジア産のコーヒーはボディと苦味の重厚な風味が特徴的です。土や森、ハーブを思わせる味わいが特徴で、濃厚で深みのある味わいを楽しむことができます。強烈な苦味とスパイシーなアクセントがあり、鮮明な苦味と強い風味が魅力的です。

【主な東南アジアのコーヒー産地と特徴】

このように、世界各地のコーヒー産地は、それぞれ独自の風土や生産方法によって、異なる風味や品質のコーヒーを生産しています。

さらに詳しい国別の風味についてはこちらの記事で解説しています。

コーヒーの精製方法

コーヒー豆は、コーヒーの実を収穫したのちの精製方法によって、風味に差が出ます。また、精製方法によって焙煎の火力を調節する事が必要になってきます。

主な精製方法は4つあります。

  • ナチュラル
  • ウォッシュト
  • パルプドナチュラル/ハニープロセス
  • スマトラ式

ナチュラル

ナチュラルプロセスでは「果肉」を付けたまま天日干しにする方法です。そのため、豆に果肉の風味が残りやすく、華やかで果実味のあるフレーバーが特徴的な精製方法です。この方法では、独特なワインのような風味が感じられることも特徴的です。

【焙煎で注意するべき点】

ナチュラルプロセスでは、果肉が豆に残った状態で精製されます。そのため、糖分が豊富で焦げやすいので、焙煎の際には焦がさないように注意が必要です。投入温度や火力が高すぎると、焦げてしまう可能性があります。焙煎した豆に焦げ目がついていたり、灰っぽい味がする場合は火力を調節しましょう。

ナチュラルプロセスでは、その甘さとボディ感を引き立てるためにゆっくりと焙煎し、特有の香り、甘さ、ボディを際立たせることが多い精製方法です。

ウォッシュト

「果肉」「粘液質」を取り除いた後、水でキレイに洗ってから乾燥させる方法です。クリアで透明感のある風味になる特徴があります。欠点豆が出るリスクが少なく、均一性があって質の高いコーヒー豆になる傾向があります。

【焙煎で注意するべき点】

ウォッシュドプロセスでは、精製後の豆に「果肉」と「粘液質」がほとんど残っていません。そのため、糖分が少なく、焙煎時に焦げる心配があまりありません。強い火力にも対応できクリアで透明感のある風味を際立たせるため、高い火力で浅煎りに焙煎することが多い精製方法です。

パルプドナチュラル/ハニープロセス

「果肉」を取る工程はウォッシュドプロセスと同じですが、「粘液質」は取り除かず、水洗いもせずに乾燥させる方法です。そのため粘液質が持つ糖分や酸味が生豆に染み込み、甘みや透明感を感じられる味わいになります。

【焙煎で注意するべき点】

ナチュラルプロセス同様、その甘さとボディ感を引き立てるためにゆっくりと焙煎し、特有の香り、甘さ、ボディを際立たせることが一般的です。

スマトラ式

スマトラ式はインドネシア・スマトラ島で行われる伝統的な精製方法です。スマトラ式以外の精製方法では、パーチメント(脱穀)を取り除くタイミングは出荷の直前です。しかし、雨が多いスマトラの地域では、豆を早く乾かすために乾燥の段階で脱穀を行います。この方法が、大地や土を思わせる、スマトラ産独特のフレーバーを生む理由と考えられています。

【焙煎で注意するべき点】

スマトラ式の豆は、密度・水分値が通常の豆に比べると高いため、強い火力で焙煎する必要があります。また、スマトラ式の豆は深煎りが一般的ですが、2ハゼ以降は焙煎しない方が良いというのが、海外では一般的な見解です。これはスマトラ式の豆が2ハゼ時点でも斑であり、なお色が明るく見えるという特徴のせいです。見た目に騙され焙煎し過ぎてしまうと焦げ感が強くなってしまうので注意が必要です。

コーヒーのグレード

コーヒーの豆は、各生産国にて生豆の精製処理がされてから出荷されるまでの間に、生豆のグレード分けが行われます。またグレードによって焙煎のアプローチを調節していく事が必要になってきます。

主に用いられるグレード分けの基準は4つあります。

  • 標高
  • スクリーンサイズ
  • 欠点数
  • カップテスト

標高

コーヒーを栽培する地域の標高は、コーヒーのグレードを決める際の基準の一つです。

より標高の高い地域で育った豆ほど、その品質は高くなると言われているため、高地の豆の方が評価が高くなります。標高が高い地域は昼夜の気温差が大きいため、植物の種子が硬く締まります。そのため、平地で育てられたコーヒーに比べて、酸味・香り・味わいなどがより際立った特徴として表れることになります。

【低地のコーヒー豆(軟質)を焙煎する際の注意点】

標高が低い土地で育った豆は、種子が硬く引き締らず、密度が低くなります。密度が低いということは、内部には空気が多くあり熱伝導が悪くなります。そのため、熱が高すぎると内部に熱が伝わる前に、豆の表面のみが過熱し焦げるリスクがあります。このような理由から、柔らかい豆を焙煎する場合には、低い投入温度を使用することが一般的です。

【高地のコーヒー豆(硬質)を焙煎する際の注意点】

標高が高い土地で育った豆は、種子が硬く引き締るため、密度が高くなります。密度が高いということは、熱伝導率も高いので、表面に与えられた熱は素早く全体に伝わり、均一に温まります。また、密度が高いということは豆の壁が硬いということなので、軟質な豆よりもより強い火力でカロリーを与える必要があります。

標高でコーヒーを評価している主な国

グァテマラSHB→HB→SH→EPW→PW→EGW→GW
ホンジュラスSHG→HG→CS
エルサルバドルSHG→HG→CS
メキシコSHG→HG→PW /AL→PL→BL
コスタリカSHB→GHB→HB/HGA→MGA→LGA
パナマSHB→HB→EPW

スクリーンサイズ

コーヒー豆の大きさを表す用語の一つが、スクリーンサイズです。スクリーンは『ふるい』のことで、コーヒー豆をふるいにかけて大きさを統一しています。

より大きなサイズの豆の方が、評価が高くなります。大きい豆の評価が高くなる理由としては、大きい方が小さい豆よりも良く見えるといった理由が海外では一般的な見解です。

一昔前では、サイズが大きい方が完熟していて美味しいとされていましたが、実際に味にはそこまで違いがないとされています。ピーベリーと言われる小さい豆でも、大きい豆に劣らない風味を持っているという事実もあります。特にスペシャリテコーヒーが盛んになった今、サイズに関係なく味にフォーカスしているロースターが増えています。

【サイズの違いによる焙煎する際の注意点】

焙煎における豆のサイズの影響は、単純に大きな豆の内部に熱が浸透するのに時間がかかることです。これは大きな豆ほど温度がより遅く上昇し、焙煎の終わりには中心部の温度が低いことを意味します。

【小さい豆の場合】

生豆のサイズが小さいと、熱が全体に行き渡るまでの時間が短くなり、弱い火力でも均一に焙煎する事ができます。

【大きい豆の場合】

生豆のサイズが大きいと、熱が全体に行き渡るまでの時間が長くなるので、強い火力が必要になります。

スクリーンサイズでコーヒーを評価している主な国

コロンビアExcelso Premium→Excelso Supremo→Excelso Extra→Excelso Maragogipe→Excelso Caracol→Excelso Europa→Excelso UGQ
ケニアAA→A→B→AB→C→E→TT→T→PB
タンザニア(アラビカ種)AA→A→B→AB→C→E→PB

欠点豆

欠点豆とは、「取り除かないとコーヒーの風味に悪い影響を与える不良豆」のことです。主に、貝殻豆、未熟豆、カビ豆、発酵豆、虫食い、欠け豆、穀物、異物などの種類があります。欠点豆や異物が混入していると、雑味、渋み、えぐみ、カビ臭などの原因となり味が損なわれる原因となります。

欠点豆の割合が少ないほど、評価が高くなります。

【焙煎をする際の注意点】

欠点豆に関しては、焙煎中に関する注意点はあまりありません。何よりも大事なのは、焙煎前後に入念にハンドピックを行い、欠点豆を取り除いていくことです。

欠点豆でコーヒーを評価している主な国

エチオピアG1→G2→G3→G4→G5
インドネシアG1→G2→G3→G4→G5
ペルーG1→G2→G3→G4→G5→MCM→MC

カッピングテスト

カッピングテストとは、1982年にSCAA(アメリカスペシャルティコーヒー協会)が設立され世界的に「スペシャルティコーヒー」の概念が広がるにつれ、開発された評価方法です。それ以前は、国によって「標高」「スクリーンサイズ」「欠点豆」のようにグレードの基準が違いましたが、カッピングテストにより同じ基準で評価されることになりました。

カッピングの方法は焙煎した豆を、挽いて、お湯で抽出してカップ(コーヒー液)にした時の香りと味で評価します。

【スペシャルティコーヒー】80点以上

  • 全コーヒー流通量の約5%が、このスペシャルティコーヒーと呼ばれています。SCAJ、COEカップ評価が80点以上(カップ評価項目において4項目以上が6点以上)のコーヒー豆です。生産地から生産処理、流通経路、ロースターまでのトレーサビリティが確認できる事が一つの基準にもなっています。

【プレミアム/ハイコモディティコーヒー】76〜80点

  • SCAJ、COEカップ評価 76点以上(カップ評価項目において全項目が5点以上)のコーヒー豆です。品種、生産地が明記されており、品質も高い事が特徴です。

【コモディティ/コマーシャルコーヒー】50〜75点

  • もっとも流通量が多いグレードがこのグレードです。品質や生産地は不明確で、ブレンドして販売されている事が多いです。スーパーやコンビニで購入することができ、安く手軽に楽しめるのも特徴の一つです。

【ローグレードコーヒー】50点以下

  • 生産地で自家消費される他、缶コーヒーやインスタントコーヒーの原料としても使用されます。

収穫期間

収穫期間もコーヒーの味に大きく影響します。新米や新茶と同じように、新しい豆の方が風味が豊かで味もしっかりしています。古くなると少し風味が枯れてきて、藁のような味がすることがあります。商社は定温倉庫で生豆を保管していますので、2年くらいは良い風味は保たれます。売られている生豆も、大体、収穫から1〜3年以内のものが多い印象です。

主な収穫期間の名称は4つあります。

  • ニュークロップ
  • カレントクロップ
  • パストクロップ
  • オールドクロップ

ニュークロップ

ニュークロップとは、収穫年度のコーヒー豆(収穫から数ヶ月以内の生豆)のことです。

みずみずしく、程よく酸味のきいたフレッシュな味わいが特徴です。収穫されて日が経っていないコーヒー豆は水分を多く含んでいるため、青緑色をしています。焙煎すると味や香りがはっきり出るため、スペシャリティコーヒー業界ではニュークロップはとても重宝されています。

【焙煎で注意するべき点】

豆に含まれる水分が多いほど、豆はより多くの熱を保持でき、より良い熱伝達が得られることができます。そのため、水分値が多い場合には焙煎の初期段階でより高い熱を受け入れることができます。このようなことから、強い火力を使用し短時間で焙煎を終わらせることで、酸味・フルーティー感を際立たせる、スペシャルティコーヒー業界では重宝されています。

カレントクロップ

カレントクロップとは、収穫年度のコーヒー豆(収穫から数ヶ月後、1年以内の生豆)のことです。

ニュークロップと同じく新豆ですが、収穫から少し時間が経ち、すでに市場で流通しているものをこう呼びます。ニュークロップよりも少しだけ水分量が減っているため、緑色をしています。鮮度の面では収穫後一年以内ということもあり申し分なく、焙煎するとニュークロップ同様、味や香りを楽しむことができます。

【焙煎で注意するべき点】

カレントクロップもニュークロップ同様に、豆に含まれる水分が多いく、より良い熱伝達が得られることができます。そのため、水分値が多い場合には焙煎の初期段階でより高い熱を受け入れることができます。

パストクロップ

パストクロップとは、収穫から1年経過したコーヒー豆のことです。

約一年経っていることもあり、新豆と比べて生豆の色が深い緑色から黄みがかった色に変化しています。水分がほどよく抜け、酸味が落ち着いてバランスの良い味わいになります。ここまでは普通に流通しています。

【焙煎で注意するべき点】

パストクロップになってくると、水分値もだいぶ低いため熱伝導率は低くなっています。そのため、中心まで熱が伝わりにくく、強い火力だと外側だけが焦げやすくなっていましまうので、強すぎる火力には耐えられない傾向が強くなります。

オールドクロップ

オールドクロップとは、収穫から2年以上経過したコーヒー豆のことです。

見た目はパーストクロップ以上に黄色がかった色合いです。水分量が少なくなり、味や香りがマイルドになり飲みやすくなる一方で、豆本来の個性的な味わいが薄れてしまうというデメリットもあります。古い豆や劣化した豆と考えられることが多く、焙煎しても味わいや香りが抜けていることがあり、独特なコクを加えるために他の豆に少しブレンドされることがあります。

【焙煎で注意するべき点】

オールドクロップは、水分がかなり低いため火力の調節には最新の注意が必要です。熱伝導率が低く、中心まで熱が伝わりにくいので、強い火力だと外側だけが焦げやすくなっています。

このように、生豆を選ぶ際には産地ごとの味ももちろん大事ですが、自分がやりたい焙煎にあったコーヒー豆を選ぶことも重要になってきます。