コーヒー焙煎のフェーズの長さと中点による味の違いを「Roast Magazine」から学ぶ

参考:Roast Summit 2022 | Session Three: Tasting the Roast Curve

「Roast Magazine」のYouTubeチャンネルで、焙煎時間が味に与える影響についてニッキ・アムーリ(Nicki Amouri)が説明した内容をまとめました。彼女は、バージニア州ビエナにあるカフェ・アモーリのローストマスターとして知られており、コーヒー業界で著名な人物です。アラビカQグレーダーのライセンスを持ち、スペシャルティコーヒー協会(SCA)から認定されたロースターおよびバリスタでもあります。

「Roast Magazine」は、スペシャルティコーヒー業界に特化したアメリカの雑誌です。2004年に創刊され、コーヒーの焙煎や生豆の品質管理、持続可能性、技術革新など、焙煎業者やコーヒー業界のプロフェッショナルに向けた情報を提供しています。毎号、最新の焙煎技術、機器のレビュー、焙煎業者へのインタビュー、業界のトレンドに関する記事が掲載され、業界関係者から高く評価されています。また、Roaster of the Year(年間優秀ロースター賞)という権威ある賞も主催しており、優れたコーヒーロースターを表彰しています。

実験の内容

彼女が行った実験では、焙煎の各フェーズ(ドライング/メイラード/デベロップメント)の時間を調整し、それが味にどのような影響を与えるかを検証しました。この実験には、一般的なコーヒー消費者からバリスタ、焙煎師、Qグレーダーまで、幅広い参加者が加わりました。抽出方法はバッチブリューとクレバードリッパーで行われました。

【実験の内容】

  • 【実験1】中点の温度とドライングフェーズの長さ
    • 6分(中点80°)/6分30秒(中点74°)/7分(中点69°)
  • 【実験2】メイラードフェーズの長さ
    • 3分/4分/5分
  • 【実験3】デベロップメントの長さ
    • 1分/2分/3分
  • 【実験4】RORの頂点
    • 毎分15.6°/毎分18.9°/毎分21.7°

注意:ニッキーは、この実験の結果が全ての焙煎機に当てはまるわけではないと指摘しています。例えば、彼女が使用しているDIEDRICH 12kgでは、デベロップメントフェーズの時間を1分、2分、3分と変えた際にこのような結果が得られましたが、焙煎機によっては1分30秒、2分30秒、3分30秒で同様の結果が得られる場合もあると述べています。

【実験の結果】

【実験1】中点の温度とドライングフェーズの長さ

この実験では、中点(ボトム)の温度とドライングフェーズの時間を変え、それがカップにどのような影響を与えるかを調べました。(この実験では、ドライングフェーズの終了温度を153.3°と設定しています。)

最も影響を受けた要素:スウィートネス

やはり、中点が低い場合には焙煎初期に十分な火力が与えられないため、味が未発達のままドライングフェーズを終えることが分かります。その結果、ゴムやタバコのようなフレーバーが現れ、いわゆる「生焼け」の状態になり、カップにスカスカした印象を与える傾向があります。逆に、中点が高すぎると過剰に熱が与えられるため、焦げた印象や過度に強い味わいになってしまいます。ニッキーは、ドライングフェーズの時間を変えることで最も影響を受けた要素は甘みであり、中点を74°、ドライングフェーズの時間を6分30秒にした場合が、最もバランスが良く、甘みが際立つ焙煎ができると語っています。

【実験2】メイラードフェーズの長さ

次の実験では、メイラードフェーズの時間を調整し、それがカップにどのような影響を与えるかを調べました。(この実験では、153.3°をメイラードフェーズの開始温度と設定しています。)

最も影響を受けた要素:ボディ

メイラードフェーズの時間を変えた場合、被験者の好みは均等に分かれ、どの時間でも美味しいカップになったと語っています。この結果から、メイラードフェーズは他のフェーズに比べて味に大きな影響を与えないことが分かります。実験では、「アシディティ」や「軽さ」を好む人は3分のメイラードフェーズを、「コク」が好きでアシディティを好まない人は5分のメイラードフェーズを選ぶ傾向が見られました。中間の4分は、最もバランスの取れた複雑な味わいのカップになっています。

ここでよく聞かれる疑問として、メイラードフェーズを長く取るほど甘さが引き立つという話があります。ニッキーもこの点に触れており、甘さが際立つのは確かだが、時間を長く取るほど他の風味が失われると述べています。メイラードフェーズが長くなると、アシディティやフレーバーが消え、どの豆も似たような味わいになり、豆の個性が失われていく傾向があるそうです。多くの試行錯誤の結果、4分が最もバランスが良く、甘みも引き立つ最適な時間だという結論に至っています

【実験3】デベロップメントフェーズの長さ

この実験では、デベロップメントフェーズの時間を調整し、それがカップにどのような影響を与えるかを調べました。

最も影響を受けた要素:アシディティ

デベロップメントフェーズでは、時間が短いほどシトラス系のアシディティが際立ち、長いほどフラットで特徴のない味わいになる傾向があることが分かります。ニッキーによると、アシディティを強調したい場合は1分、スウィートネスやジューシーさを引き立てたい場合は2分のデベロップメントタイムを選ぶことが多いと述べています。このことから、シングルオリジンには1分30秒、ブレンドコーヒー(特にエスプレッソブレンド)には2分が理想的だとしています。

また、この結果はライト〜ミディアムローストに当てはまると述べており、2ハゼまで到達するようなダークローストでは、3分30秒以上のデベロップメントタイムを推奨しています。これは、ロースト臭や嫌な苦味を防ぐために、2ハゼ後も緩やかにROR(Rate of Rise)を減少させる必要があるためです。(ただし、RORが0を下回るとベイクドフレーバーが生じるため、注意が必要です。)一方、ライト〜ミディアムローストでは、3分以上のデベロップメントタイムはあまり推奨できないとも述べています。

【実験4】RORの頂点

この実験では、ROR(Rate Of Rise)の最も高い点を調整し、それがカップにどのような影響を与えるかを調べました。

最も影響を受けた要素:スウィートネス

彼女が行っている焙煎では、RORの頂点を38°〜39°に設定することで、力強いフレーバーが溢れるジューシーなカップを実現しています。

RORというと「緩やかな減少が良い焙煎を生み出す」というスコット・ラオの理論を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、RORの頂点についてはあまり語られないことが多いという印象があります。焙煎初期に、参考プロファイル通りに進まず、RORが頂点に達する前に火力を調整してしまい、RORのピークが大きくずれてしまった経験を持つ人も多いかもしれません。「緩やかな減少が良い焙煎を生み出す」という考えが、RORの頂点の重要性を低く見積もらせているように感じますが、この結果から、味に大きな影響を与えることがよくわかります。